土曜日に予備校で体験談を話した。仕事した。あれは間違いなく労働だった、1.5時間で1000円の報酬だったから。紙幣じゃなくて図書カードだったけど。
 僕のほかに話す人は2人いた。僕はトリ。1人15分ぐらいの持ち時間。2人の話すのを後ろで聞いていて驚いたのだが、原稿もメモも何も持たずに話している。しかも生徒達を前にして堂々と前を向いて話しているし。なんだこいつらは。ありえない。僕なんて2時間ぐらい前からカフェでウンウン言いながら、話す内容のメモを作ったのに(気分が乗らないからビールまで飲んだのに)。
 いいさ。マリナーズの城島が言ってた。「僕は臆病者です。だから最悪の事態を想定して、万全の準備をします」城島は臆病者じゃない。リスクを正確に把握するには賢さが必要だし、それを正面から認識するには勇気が必要だ。ちゃんと準備するのは、かっこ悪いことじゃない。
 そうだ。僕は賢くて勇気がある。生徒達の視線を浴びて頭が真っ白になってしまったり、緊張のあまり猥語を連発したり、被害妄想に囚われて暴力行為に及んだり、ブーイングと紙コップの嵐を浴びたり・・・そんなリスクを正確に認識して真正面から見つめた結果、メモを作成したのだ。僕は偉い、それに比べてあいつらは情けない猿だ。あんな風に話せるのは学生時代に過激派で扇動でもやってたせいだろう。そう思ってクスリと笑うと、いつもの高貴な心を取り戻せた。
 僕の番が来て、壇上にあがった。前の生徒達がチラと目にはいったが、ひたすらメモに目を落とし、読み続けた。自分の声以外、何も聞こえない。手元のメモ以外、何も目にはいらない。僕だけの「気持ちのいい道」だ。大成功だった。光あれ。
 その後、個別相談。僕のところにも2人ほど来た。おそらく僕が下を向いて話していたせいだろう、1人に嫌なことを言われたが、気にしない。何も気にすることは無い。
 すべてが終わって、図書カードを貰った。講師は「男の子はHな本を買わないようにね!」と言っていた。中学生か。でもまあ、最後の別れに何か下らないことを言わないと気がすまない人というのはいるもので、そんなに嫌いでもない。