最近分かったのですが、僕は電話応対ができません。なぜなら、人の言葉、音声を聞き分ける能力が無いからです。もともと無いというわけではなく、長年のヒッキー生活で失われてしまったのです。
実際の場面を再現しますと、プルル、と電話がかかってきます。僕は呼び出し音1回以内に素早く受話器をとり、所属と名前を名乗ります。普通にできるのはそこまでです。そこから先、電話先の人が話すことを僕はまったく聞いていないのです。適当に相槌を打ちながら、相手が喋るにまかしています。
なぜ人の話を聞けないのか。普通の人は疑問に思うでしょう。でも、ヒッキーで、しかも本を読むのが好きだった人間はたいてい僕と同じです。僕たちは「人の肉声が活字になるのを待っている」のです。宙に飛んだ人の肉声がインクになって、紙の上に滴り落ちて文字になり、文書ができることを漠然と期待しているのです。そのうち文書になるのだから、今は適当に聞いとけばいいや、後で文書のほうを読めばいい、と思っているのです。
しかしながら、現実の世界ではそんな考えでは通用しない、ということを最近になって痛感しています。電話先の人はみんな話が通じないと怒って電話を切ります。電話応対だけでなく、僕に色々教えてくれる先輩や上司も怒ります。「人の話を聞け」そういって怒ります。まあ僕は、そうやって怒っている人たちの話も、後で活字になってから読めばいいやと思って聞き流しているわけですが・・・。
現実の生身の人間同士の会話では、言葉は逃げ去るものである。そのことを僕は悟らないといけません。そうしないと、近い将来、僕のデスクから電話が没収されてしまうでしょう。