ある男の今日

先月、冷蔵庫を変えてから、中身を引き継いだものといえばマヨネーズとケチャップ。だけど両方とも腐ってるかもしれないし、もう使わない方がいいだろう。
もったいない、と思って捨てることもできず、ずっと放置してきた。
今日、冷蔵庫をのぞいて、男はふと思いつく。このマヨネーズを活かす方法を。
夜になるのを待って、さらに人々が寝静まるのを待って、マヨネーズを入れたビニール袋を持って外に出る。
少し歩く。雨は上がっていたが、曇っていて月も星も見えない。
できるだけ人の目につかない場所が必要だ。適当に歩き続けて、小さな道を見つける。両側に民家はあるものの、明かりの灯っている窓はない。ここが良いだろう。
おもむろにマヨネーズをビニール袋から取り出し、股間に当てる。蓋を開ける。これからやる行為からすべての目を欺くためなのか(あるいは、欺きたかったのは自分の自制心かもしれない)、空いている右手をブラブラと揺らす。
鳴っていた虫の音がふと止まったその時、右手が疾り、ぐむ、と両手で容器を掴む。びゅるびゅるるびゅるる。すさまじい勢いで放たれる白いマヨネーズ。びゅるびゅるる。両手の甲にはピクピクと血管が浮かび上がっている。びゅるびゅる。だんだんと傾きをきつくしていく体勢に耐え切れず、膝がガクリと折れる。びゅるびゅる。今や放出されるマヨネーズはほとんど天を目指しており、極端に狭められた逆U字を描いている。びゅるびゅる、びゅるびゅる。
ぴゅっ、ぴゅっ・・・。マヨネーズが尽きて、どんなに握りなおしても放出されなったとき、ほとんど突然といってもいいぐらい、恐怖感に襲われる。こんなところを見られたら、俺はおしまいだ。
がくがくと震える足に、太ももをたたいて活をいれ、走ってその場を逃げ出す。途中で空の容器を持ち続けていることに気づき、投げ捨てる。
家に帰り着き、ハアハアと息を切らしながら、なんとかタバコに火をつける。一ト仕事を終えて一服している人がよくそう思うように、生きよう、と男は思う。