風邪をひきました。今年度初めての風邪です。
風邪をひいた経緯はこうです。今週からなんだかとても寒くなり、おまけに雨まで降っていました。これは厚い布団を出さないといけないなあ、と思って押入れから出しました。
布団は押入れに入れておいたのですが、布団カバーはなぜかハンガーにかけてカーテンレールに引っ掛けていたので、それも取って布団にかぶせました。
あらかた布団カバーをかぶせ終わったころ、ハッと気づいたのですが、布団カバーに白いものがくっついているのです。よくみてみるとそれはクモの卵でした。たくさんのゴマのような粒々が白い糸にくるまれています。
ティッシュで丁寧に卵と糸を除けながら、なんだかとても悲しい気分になりました。犯人はわかっているのです。この夏、何度となく見かけた小さな灰色の蝿取りグモです。ほとんど毎日見かけていたのですが、僕は潰さないように、また驚かせないように細心の注意を持って、適度な距離感を保ちながらそのクモと接してきたのでした。空いた窓から出ようとすれば室内へと誘導してやり、僕の布団にもぐりこもうとすれば優しく息を吹きかけて壁へ向かわせてあげる(僕は壁や天井を歩くことはできませんから、そのスペースは100%彼女のものなのです)。そのようにしてきました。
なのにこんな形で裏切りを知ることになるとは。とてもショックでした。僕とクモの関係は、性的なものを排した、それ故に純真なものであったはずでした。そこにいきなり卵を産みつけるとは。クモは僕と適当に話を合わせつつ、裏では夜な夜な男を漁ったりしていたのでしょうか。そして男の前で僕のことを「坊やなのよね」とか評してセックスオンザビーチとかを飲んでいたんでしょうか。許せません。
プンプンしながら、穢れた布団を使うわけにはいかないので毛布だけで寝ました。それで寒さに耐えかねて風邪をひいてしまったというわけです。
だけど、今思うと僕のほうも悪かったのかもしれません。押入れやたんすには「防虫力」や「タンスにゴン」をこれでもかというほど入れているからです。僕の中にどこか、クモを虫とさげすむこころがなかったとは言い切れません。そんな僕に対する告発として、クモはあんなことをしたかもしれないのです。
風邪をひいて以来、クモを見かけていません。また、クモに会いたいです。もう怒ってないよ、と言って優しく迎えたいと思います。卵は捨ててしまったけどごめんね、だけどまたつくればいいじゃない、今度は僕と君の卵をさ、なんてね。とにかく戻ってきて欲しいです。