職場における自分の席というのが、これ以上ないというぐらい良い席だ。入り口が良く見える。入り口が良く見えるということは、入ってくる人のことを確認しやすいということであり、すなわちそれは「追っ手」を認識しやすいということだ。
「追っ手」がどのような人たちなのか、どのような組織に属していて、どのような理由でここにやってくるのか、それは分からないが、僕には必ず「追っ手」がやってくるという確信があり、それで入社以来ずっと入り口を見張っている。それが僕の仕事だ。僕はその仕事を立派に果たすと言う約束で今の会社に雇ってもらったのだと理解しているし、また、少なからず重宝されているのだ。そう思っていた。
しかしこの6ヶ月というもの、「追っ手」は姿を見せず、またその気配すら感じられなかった。入り口を見やるだけというやりがいのない仕事を与えられ、空虚な日々を過ごしつつ、自分の能力が果たして正当に会社から評価されているのだろうか?という疑念ばかりが募っていった。転職。そんな言葉さえ頭にちらついた。
しかし6月29日の朝、上司に呼ばれて行ってみると「君を正社員として認める」と言われた。今までの6ヶ月は試用期間であり、7月1日から僕は本当の正社員として採用されるのだと。
なるほど、テストだったというわけだ。これまでの「追っ手」の影さえ見えない6ヶ月はテストに過ぎなかった。上司は僕に、本当に「追っ手」を迅速に見破り、対処する能力があるのか、この6ヶ月で見極めていたというわけだ。
これからだ。明日は7月2日。明日からはきっと、わんさか「追っ手」が押し寄せ、僕はそいつの服装や身のこなしなどから瞬時に「追っ手」であると見破り、ほら貝を吹き鳴らすだろう。充実したサラリーマン生活が、待っていることだろう。
「君に期待する」上司はそう言っていた。期待に応えよう。「追っ手」にはあなたに指一本、触れさせやしないぜ。